六十八歳、紀元前四八四年、魯の哀公十一年。斉が魯に侵攻した。孔子の弟子の冉有は季氏の将となり、魯の郊外で斉軍と戦い、勝利した。季康子は冉有にどの様にして作戦を学んだのかを尋ねた。冉有は孔子から学んだと言い、季氏に孔子を推薦した。季康子は公華・公賓・公林を遣わして、貨幣を以て孔子の魯への帰還を促した。魯を出て、列国の諸侯を訪問した孔子の困窮を伴う放浪は計十四年に及んだが、これにて終わりを迎えた。しかし帰国後、魯は結局孔子を登用できず、孔子もまた仕えようと思わず、一心に文献整理と教育事業に従事した。『詩』、『書』を見直し、『礼』、『楽』を定め、『春秋』を編修した。また継続して弟子を集めて教授を行い、国を治める賢才を育成した。『史記』によると「弟子はおよそ三千人で、六芸に精通した者は七十二人であった」という（『史記』孔子世家）。